【はじめる準備】初心者がはじめて家庭菜園スペースを借りる前に知っておきたいこと ~「市民農園」について~

【はじめる準備】初心者がはじめて家庭菜園スペースを借りる前に知っておきたいこと ~「市民農園」について~

はじめに

小さな庭やベランダでも家庭菜園をはじめることは出来ますが、最近では営利事業としての農業ではなくレクリエーション等を目的に開設された「市民農園」も増え、より広い菜園スペースを確保することが容易な状況になっています。

私の場合、近所に家庭菜園用に貸し出されている区画があり、利用料を支払って15坪のスペースで野菜づくりをしています。簡易的な農機具収納施設と休憩スペースがあり、快適に農作業をすることが出来ます。

一帯は自治体により「風致地区(ふうちちく))」に指定され、都市部のオアシスのような環境で多くの方々が野菜づくりを楽しんでいます。

※「風致地区」とは、都市に残された水や緑などの貴重な自然環境を守る地域に指定され、都市における風致を維持するために定められる地区です

ところで、私が家庭菜園用のスペースを借りるためにいろいろと検討していく中で、「農地法」という法律による規制の話に出くわすことがよくありました。特に、農地を無許可で貸し借りするいわゆる「ヤミ小作」については、私が当時購入した書籍(2014年初版の本です)にも注意喚起の記述があり、またネット検索でも気にしている方が多い印象でしたので、私も菜園スペースを確保するにあたり、どのような選択をするべきなのかいろいろと調べました。

例えば、知人からの口コミで土地を借りることが出来るというケースは割とよくあるのではないかと思いますが、このようなケースにおいての貸借は可能なのか、とか、あるいは自宅の一角を家庭菜園用のスペースとして転用する場合、それは「農地」としての扱いになって本来はやってはいけないことなのか、とか、けっこういろいろな疑問が湧いてきました。

以下に自分が調べた結果を記しておきますので、これから家庭菜園のためのスペースをどうしようかと考えている方の参考になれば幸いです。

なお、法律については時々改正されますので、農業の管轄官庁である農林水産省のホームページに掲載されている内容が正確かつ最新と考え、主にそちらから情報を得ています。

農林水産省ホームページ

そもそも「農地」とは?

農地法でいう農地とは耕作の目的に供される土地をいい、登記上の地目を問いません。

ちなみに、登記上の地目の種類は、以下の23種類です。

宅地、田、畑、山林、原野、用悪水路、公衆用道路、公園、雑種地、境内地、牧場、鉱泉地、池沼、墓地、水道用地、運河用地、ため池、保安林、堤、井溝、保安林、鉄道用地、学校用地

家庭菜園をしている土地などは、土地の地目が宅地なのか畑なのか判断に迷う所ですが、小さな普通の家庭菜園でしたら、建物の敷地の一部であり、その土地の地目は宅地と判断されることが多いようです。

いっぽう、大規模な家庭菜園でその土地の主な目的が畑と言えるようであれば、その土地の地目は畑という判断もありえます。

基本的に、土地の地目の種類を決めるときには、土地の一部分だけを見て判断するのではなく、その土地の全体的な状態を見て判断しなければなりません。

「市民農園」について

現在の日本では、農業の担い手不足や農地の遊休化が進行する中で、「市民農園」の開設を促進することが都市と農村の交流等を通じた地域農業及び地域経済の活性化に資すると考えられるようになっています。

今般の家庭菜園を取り巻く状況を理解するうえでは、農林水産省のホームページに掲載されているレポート「都市農業をめぐる情勢について(令和4年1月)」に目を通しておくと良いと思います。

レポートでは、農家でない私たちが野菜づくりをするスペースを「市民農園」と呼称しています。

一般に市民農園とは、サラリーマン家庭や都市の住民の方々のレクリエーション、高齢者の生きがいづくり、生徒・児童の体験学習などの多様な目的で、農家でない者が小さな面積の農地を利用して自家用の野菜や花を栽培する農園のことをいいます。

農家でない者がこのような農地利用をできるよう、特定農地貸付法等により、自治体・農協・農家・企業等が市民農園を開設できるようになっています。

 このような農園はヨーロッパ諸国では古くからあり、ドイツでは「クラインガルテン(小さな庭)」と呼ばれています。

我が国では市民農園と呼ばれるほか、「ふれあい農園」や「農業体験農園」などいろいろな愛称で呼ばれています。

 市民農園には大まかに2つのタイプがあり、それぞれのニーズに応じて利用することができます。

〇日帰り型市民農園

都市住民が自宅から通って利用できるタイプの市民農園です

〇滞在型市民農園

宿泊が可能な施設を備えたタイプの市民農園です。

市民農園に関係する法律について

地方公共団体及び農協が開設する場合に、区画分けされた小面積の農地を短期期間貸し付ける場合の農地法上の特例を設けた、「特定農地貸付けに関する農地法等の特例に関する法律(特定農地貸付法)」が平成元年に制定されました。

その後、農機具庫や休憩所等の附帯施設を備えた市民農園の整備を促進するため、平成2年に「市民農園整備促進法」が制定されました。

平成17年には特定農地貸付法が改正され、地方公共団体及び農協以外の者による市民農園の開設が可能となりました。

平成30年には、「都市農地の貸借の円滑化に関する法律(都市農地貸借法)」が制定され、都市農地の有効活用を目的とした市民農園開設のための都市農地(生産緑地)を借りやすくする仕組みが創設されました。

特定農地貸付けに関する農地法等の特例に関する法律の施行について

農地法(昭和27年法律第229号)においては、農地が効率的利用を行う農業経営体によって利用されるよう、基本的に全ての農地の権利移動に関して許可が必要であり、一定規模以上の農地を耕作し、農作業に常時従事して、その効率的利用を行う者でなければ、原則として農地の権利取得が認められません。

このため、小規模の農地を使い余暇等を利用して農作物を栽培しようとする者については、開設者自ら農業経営を行い、入園者が農作業の一部を行うといういわゆる「入園契約方式」によって従来から対応してきました。

しかし、この方式はあくまで入園者は農作業を行うだけであるという農地制度上の限界があり、より安定した形態での農地の利用を認めることを求める声が高まってきていました。

したがって、このような要請にこたえるため、小面積の農地を短期間で定型的な条件の下に貸し付ける場合について、農地法の権利移動統制の適用除外その他の措置を講ずることとしたものです。

特定農地貸付けの定義

1 「特定農地貸付け」とは、農地の貸付けで、次に掲げる要件に該当するものをいうこととされている。

10アール未満の農地に係る農地の貸付けで、相当数の者を対象として定型的な条件で行われるものであること(法第2条第2項第1号、令第1条)。

営利を目的としない農作物の栽培の用に供するための農地の貸付けであること(法第2条第2項第2号)。

5年を越えない農地の貸付けであること(法第2条第2項第3号、令第2条)。

2 特定農地貸付けに係る貸付けの面積は、10アール未満とされている。これは、例えば、農業委員会の委員の定数の基準となる農業者を、その耕作の事業に供している農地面積が10アール以上の者であることとしていること(農業委員会等に関する法律施行令(昭和26年政令第78号)第5条)等に見られるように、10アールという農地面積が、本来の農業を行う場合とそれ以外の場合との区切りとなっていること等によるものである。この面積は、利用者1人が利用できる区画の面積の上限であり、実際には、都市部と農村部とでは農地の賦存状況、借受希望者数、借受者の利用意向等が異なっていることから、特定農地貸付けを実施するに当たっては、これらの諸要素を勘案しつつ面積を決定することが適当である。

3 特定農地貸付けに係る「相当数の者」については、農地の賦存状況、見込まれる利用者数等によって異なるものであるが、少なくとも複数の者を対象に貸付けが行われることが必要である。

4 特定農地貸付けに係る「定型的な条件」とは、具体的な貸付方法についての一般的な準則である貸付規程に従った貸付けが行われることをいうものである。

5 特定農地貸付けを「営利を目的としない農作物の栽培」の目的に限定しているのは、特定農地貸付けがあくまで都市住民等が余暇を利用して行う農作物の栽培のためのものであり、通常の農業とは性格が異なることによるものである。したがって、貸付規程において営利を目的として農作物の栽培を行おうとする者には農地の貸付けをしない旨を定めるとともに、借受者との間で締結する個別の貸付契約において、営利を目的とした農作物の栽培は行わないこと、これに違反した場合には貸付契約を解除することを定めることが適当である。

6 特定農地貸付けに係る貸付けの期間は、5年を越えないこととされている。これは、1年程度の短期間では、おのずから作物の選定が制限されるとともに、時間をかけて土作り等を行うことができないこと、逆に、10年程度の長期間を認めた場合は、できるだけ多くの人に農地を利用してもらうという趣旨が全うされないおそれがあることから、5年という期間が適当であると考えられることによるものである。一方、その範囲内であれば、農地の賦存状況、借受希望者数、借受者の利用希望等を勘案しつつ、柔軟に実際の貸付け期間を決定することが可能である。また、期間満了時に更新を行うことは可能であるので、借受者の意向等を把握しつつ、適切に対応すべきものである。

7 農業協同組合が行う特定農地貸付けは、その組合員に代わって農地の有効利用を図る趣旨のものであるから、組合員の所有に係る農地について行うものに限定されている。また、農業協同組合が農地について所有権を取得して特定農地貸付けを行うことは、農業協同組合が自己の所有する農地について特定農地貸付けを行うことになり、組合員との継続的な関係がなくなること等から認められていない。

8 地方公共団体及び農業協同組合以外の者が特定農地貸付けを行う場合は、公的な性格を持たないこれらの者が適切に農地の管理が行えるよう、必要に応じて行政機関が支援を行う体制を確保することが必要なことから、これらの内容を定めた貸付協定を次により締結することとされている(法第2条第2項第5号)。

① 農地を所有する者が特定農地貸付けを行う場合は、その者と当該農地の所在地を所轄する市町村との2者間

② 地方公共団体又は農地中間管理機構から使用貸借による権利又は賃借権の設定を受ける者が特定農地貸付けを行う場合は、その者、当該農地の所在地を所轄する市町村及び使用貸借による権利又は賃貸借の設定を行った地方公共団体又は農地中間管理機構との3者間

「市民農園整備促進法」の概要

1 目的

市民農園の整備を適正かつ円滑に推進するための措置を講ずることにより、健康的でゆとりある国民生活の確保を図るとともに、良好な都市環境の形成と農村地域の振興に資する。

2 市民農園の定義

①及び②の総体

① イ又はロ

イ 「特定農地貸付けに関する農地法等の特例に関する法律」に規定する特定農地貸付けの用に供される農地

ロ 相当数の者を対象として定型的な条件で、レクリエーションその他の営利以外の目的で継続して行われる農作業の用に供される農地(都市住民等に対する権利設定なし)

② 市民農園施設(①の農地に附帯して設置される農機具収納施設、休憩施設その他の当該農地の保全又は利用上必要な施設)

3 市民農園の整備に関する基本方針

都道府県知事は、市民農園の整備の基本的な方向、市民農園区域の設定に関する事項等を内容とする「市民農園の整備に関する基本方針」を定める。

4 市民農園区域

市民農園を開設するためには、市町村は、基本方針に基づき、当該市町村の区域内の一定の区域で市民農園として利用することが適当と認められること等の要件に該当するものを市民農園区域として指定することが必要。市街化区域については、市民農園区域の指定は不要

5 交換分合

市町村は、市民農園区域を指定し、又はこれを変更しようとする場合において、市民農園区域内の土地を含む一定の土地について交換分合を行うことができる。

6 市民農園の開設の認定

市民農園区域内又は市街化区域内において市民農園を開設しようとする者は、市民農園の用に供する土地の所在、市民農園の整備に関する事項、市民農園の運営に関する事項等を記載した整備運営計画を作成し、市町村の認定を受けることができる。

7 認定の効果

(1)認定を受けた者(以下「認定開設者」という。)が整備運営計画に従って特定農地貸付けを行う場合には、「特定農地貸付けに関する農地法等の特例に関する法律」に基づく承認を受けたものとみなす。

(2)認定開設者が整備運営計画に従って農地等を市民農園施設の用に供する場合には、農地法に基づく転用許可があったものとみなす。

(3)認定開設者が整備運営計画に従って行う一定の市民農園施設に係る開発行為等については、都市計画法に基づく開発許可及び建築許可が可能となる。

まとめ

従来、農地法の規制によって基本的に全ての農地の権利移動に関して許可が必要であり、一定規模以上の農地を耕作して農作業に常時従事していなければ、原則として農地の権利取得が認められていませんでした。

そのため、家庭菜園のような小規模の農地利用については、農地の開設者自ら農業経営を行い、入園者が農作業の一部を行うといういわゆる「入園契約方式」によって対応してきましたが、この方式はあくまで入園者は農作業を行うだけであるという農地制度上の限界があり、より安定した形態での農地の利用を認めることを求める声が高まってきたため、このような要請にこたえるための法整備がなされ、営利を目的としない農作物の栽培を行う「市民農園」が普及することとなりました。

今日では、従来の地方公共団体や農協に加え、農家や民間事業者が市民農園を開設することが可能となっています。

各自治体のホームページには、利用可能な市民農園(開設主体の了承が得られた農園のみ掲載)の一覧が掲載されていると思いますので、予算や自宅からの距離、利用者へのサポート体制などを勘案し、自分の状況に合った市民農園を見つけて利用してみてはいかがでしょうか。

(おわり)